ことばのたからばこ

溢れたことばを綴ります。たからばこにそっとしまうように。

すきなこ

 

 

ぼくには、すきなこがいるんだ。

 

ぼくたちはうまれた時からずぅっといっしょだった。

 

うれしい時もかなしい時も、いちばんの親友だった。

 

知らないことはなにもなかった。

 

でもね、あるとき。

 

ぼくはすきなこの声がきこえなくなった。

 

すきなこより大きな声が、こう言うんだ。

 

言うことをききなさい。

 

じゃまをしないで。

 

いい子になりなさい。

 

ぼくは、必死だった。

 

いつしか、すきなこのことなんてわすれて、

 

大きな声の言うことをきいた。

 

じゃまをしないで、いい子になった。

 

いつのまにか、自分のきもちがわからなくなっていた。

 

どんな感情になればいいのか、わからなかった。

 

かなしいってどんなだっけ。

 

うれしいってどんなだっけ。

 

みんなが笑うから、笑う。

 

みんなが泣くから、泣く。

 

いい子ってこれでいいのかな?

 

ぼくは、すきなこをうらぎった。

 

だから、バチがあったのかもしれない。

 

もう一生、あえないのかな。

 

あいたい。

 

 

 

 

さがすんだ。もう1度、あのころのように。

 

一緒にいたい。

 

必死に、さがした。

 

隠れてしまってちっとも出てくれないすきなこを。

 

ころびながら、いばらのみちをかいくぐる。

 

おおきな海を、息をとめてもぐる。

 

そこには、冷たい殻にくるまれたすきなこがいた。

 

あぁ、ぼくはとってもとってもきみをきずつけてしまったんだね。

 

ごめんね。ごめんね。ゆるして。ゆるして。

 

なみだが、とまらない。

 

ゆるして。ごめんね。ゆるして。

 

そっとふれて、ぎゅーってした。

 

今までずぅっとひとりでいたんだね。

 

ぎゅーってしたら、だんだん、

 

ぬくもりがもどってきた。

 

だんだん。ゆっくり。

 

すきなこは、ぼくのむねにいた。

 

ずぅっと。

 

きこえなくなったんじゃない。

 

ききたくないから、耳をふさいだんだ。

 

ごめんね。ありがとう。もう、はなさない。

 

ぜったいぜったい、はなさないから。

 

あいしてるよ。

 

ぼくのきもち。