すきなこ
ぼくには、すきなこがいるんだ。
ぼくたちはうまれた時からずぅっといっしょだった。
うれしい時もかなしい時も、いちばんの親友だった。
知らないことはなにもなかった。
でもね、あるとき。
ぼくはすきなこの声がきこえなくなった。
すきなこより大きな声が、こう言うんだ。
言うことをききなさい。
じゃまをしないで。
いい子になりなさい。
ぼくは、必死だった。
いつしか、すきなこのことなんてわすれて、
大きな声の言うことをきいた。
じゃまをしないで、いい子になった。
いつのまにか、自分のきもちがわからなくなっていた。
どんな感情になればいいのか、わからなかった。
かなしいってどんなだっけ。
うれしいってどんなだっけ。
みんなが笑うから、笑う。
みんなが泣くから、泣く。
いい子ってこれでいいのかな?
ぼくは、すきなこをうらぎった。
だから、バチがあったのかもしれない。
もう一生、あえないのかな。
あいたい。
。
。
。
さがすんだ。もう1度、あのころのように。
一緒にいたい。
必死に、さがした。
隠れてしまってちっとも出てくれないすきなこを。
ころびながら、いばらのみちをかいくぐる。
おおきな海を、息をとめてもぐる。
そこには、冷たい殻にくるまれたすきなこがいた。
あぁ、ぼくはとってもとってもきみをきずつけてしまったんだね。
ごめんね。ごめんね。ゆるして。ゆるして。
なみだが、とまらない。
ゆるして。ごめんね。ゆるして。
そっとふれて、ぎゅーってした。
今までずぅっとひとりでいたんだね。
ぎゅーってしたら、だんだん、
ぬくもりがもどってきた。
だんだん。ゆっくり。
すきなこは、ぼくのむねにいた。
ずぅっと。
きこえなくなったんじゃない。
ききたくないから、耳をふさいだんだ。
ごめんね。ありがとう。もう、はなさない。
ぜったいぜったい、はなさないから。
あいしてるよ。
ぼくのきもち。